【解説】産業医(医師)による長時間勤務者やストレスチェック後の面接指導をオンラインで行うには?

【解説】産業医による面接指導をオンラインで行うには?
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※見やすく再編集しました

せり
せり

こんにちは!せりです。

最近は、産業医による面接指導をオンラインで行うことが増えてきました。しかしながら、産業医による面接指導をオンラインで行うにあたり、法令等で示された要件があります。

この記事では、                                                                                                                                             

これまで対面でしか面接指導を行ったことがなく、やり方がわからない

すでに始めているけれどこの方法でよいのか確認したい

という方へ、できるだけわかりやすく解説しました。
私がオンライン面接を行うときに気を付けていることも書きましたので、最後までお読みください。

新型コロナウィルスの影響が落ち着いても、オンラインミーティングなどは社会的に定着しました。

安全衛生委員会もオンラインでできるわけですし(安全衛生委員会をオンラインで開催したい!【開催方法、根拠法令等を徹底解説】参照)、産業医医師による面接もオンラインでできないでしょうか?

結論から言えば、できます。実際に私も行うことがあります。ただし、いつもながら要件があります。

産業医(医師)による面接指導をオンラインで行う要件

産業医による面接指導をオンラインで行う要件が書かれているのはこの通達です。

情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について 
令和2年11月19日付 基発1119第2号
(以下、本記事の中では「通達」と称します)。

名前長いですね・・・。

タイトルの ”労働安全衛生法第66条~の規定” とは、つまり

長時間勤務者に対する面接指導と、ストレスチェック制度における面接指導

のことです。

第六十六条の八 (面接指導等)事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者(次条第一項に規定する者及び第六十六条の八の四第一項に規定する者を除く。以下この条において同じ。)に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を行わなければならない。

第六十六条の八の二 事業者は、その労働時間が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める時間を超える労働者(労働基準法第三十六条第十一項に規定する業務に従事する者(同法第四十一条各号 に掲げる者及び第六十六条の八の四第一項に規定する者を除く。)に限る。)に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。

第六十六条の八の四 事業者は、労働基準法第四十一条の二第一項の規定により労働する労働者であつて、その健康管理時間(同項第三号に規定する健康管理時間をいう。)が当該労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める時間を超えるものに対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。

第六十六条の十(心理的な負担の程度を把握するための検査等)

3 事業者は、前項の規定による通知を受けた労働者であつて、心理的な負担の程度が労働者の健康の保  持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当するものが医師による面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、当該申出をした労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。この場合において、事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない。

この通達以外の面接指導はどうするの?

産業医による面接指導は、長時間勤務者とストレスチェック制度の面接指導だけではありません。

健康診断の事後措置のための面接や、復職判定のための面接など、いろいろとありますが、それらは法令で定められた面接ではないので、わざわざ通達を出したりしないんです。

面接をするかしないかも含めて、事業者と産業医が好きな方法で行ってかまわないということでしょう。

オンライン面接ができる医師の要件とは?

オンライン面接をする医師の要件 (いずれかに該当することが望ましい)
  • 対象労働者が所属する事業場の産業医。
  • 契約(雇用契約を含む)により、少なくとも過去1年以上の期間にわたって、対象労働者が所属する事業場の労働者の日常的な健康管理に関する業務を担当している医師。
  • 過去1年以内に、対象労働者が所属する事業場を巡視したことがある医師。
  • 過去1年以内に、当該労働者に指導等を実施したことがある医師。

あくまでも「望ましい」なので、これまで全くその職場と関係のなかった医師でもよいわけです。

私の職場は50人も働いていないので、産業医の先生はいません(選任していません)。

オンライン面接をしてくれる先生は、自分の職場の産業医ではない、という意味ではなく、そもそも産業医の資格を持っていなくてもよい、ということですか?

せり
せり

産業医または産業医の要件を満たす(資格相当の知識がある)医師が望ましい、とされていますが、これも「望ましい」なので、産業医の資格がなくても医師であれば(法律上は)できます

常時50人未満の小規模事業所でも長時間勤務者の面接を行わなくてはならないので、そもそも産業医は選任していない、という職場もあるでしょう。また、面接対象者が多数出てしまって、いつもの産業医の先生では手が回らないときに他の先生に面接をお願いすることもあるかもしれません。

ただ、職場のことを何も知らないのでは面接の意味がなくなってしまうので、事業者は面接をする医師に以下の情報を提供しなくてはなりません。

面接をする医師に提供しなくてはならない情報
  • 面接指導を受ける労働者が業務に従事している事業場に関する事業概要
  • 事業場の業務の内容及び作業環境等に関する情報
  • 対象労働者に関する業務の内容
  • 対象労働者に対する労働時間等の勤務の状況
  • 対象労働者に対する作業環境等に関する情報

これは、産業医に毎月提出しなくてならない情報と重なる部分も多いですね。

面接に使用する情報通信機器の要件とは?

面接に使用する情報通信機器には、細かいきまりがあります。

こちらは、以下のすべての要件を満たさなくてはなりません

  1. 面接指導を行う医師と労働者とが相互に表情、顔色、声、しぐさ等を確認できるものであって、映像と音声の送受信が常時安定しかつ円滑であること。
  2. 情報セキュリティ(外部への情報漏洩の防止や外部からの不正アクセスの防止)が確保されること。
  3. 労働者が面接指導を受ける際の情報通信機器の操作が、複雑、難解なものでなく、容易に利用できること。

【情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について】より

ここでのポイントは、①です。
①の要件を満たすためには、映像がなくてはならず、電話ではだめだということです。

衛生委員会等で調査審議をしていますか?

医師を確保し、情報通信機器を用意しても、まだオンラインでの面接はできません。

衛生委員会等で、情報通信機器を用いた面接指導の実施方法について調査審議し、それを事前に労働者に周知しましょう。

(安全)衛生委員会についての解説は過去の記事をご覧ください。

面接を受ける人のプライバシーに配慮することも忘れずに

面接を受ける人のプライバシーに配慮した面接環境を整備することも必要です。

オンラインセキュリティだけでなく、当然ながらオフラインのプライバシーも守らなくてはなりません。

面接内容が周りの人に筒抜け、なんていう環境では安心して面接を受けることはできませんよね。周囲に音が漏れないような個室が用意できれば最適です。

緊急時に対応できる体制が整っていますか?

緊急時に対応できる体制を整えなくてはならないことについて、通達では以下のように書かれています。

情報通信機器を用いた面接指導において、医師が緊急に対応すべき徴候等を把握した場合に、労働者が面接指導を受けている事業場その他の場所の近隣の医師等と連携して対応したり、その事業場にいる産業保健スタッフが対応する等の緊急時対応体制が整備されていること。

【情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について】より

オンラインで面接指導をしていて起こりうる緊急事態って、どんなことでしょう?

面接を受けている方が「死んでしまいたい」と言い出したり、自傷行為を行ったりすることでしょうか。または心筋梗塞や脳卒中のような急病でしょうか?

それを考えると、面接を受ける人が自宅などでテレワークをしていたら対応は難しかもしれません。

オンライン面接を行うときに気を付けていること

わたしがオンライン面接を行うときに気を付けていることは、以下の通りです。

  • 事前に通達の要件を満たしているか担当者に確認しておくこと
  • 面接を受ける人の顔色を確認すること(照明の具合によっては顔色が悪く見えることもあるので、少し顔の向きを変えてもらったりして確認します)
  • いつもよりも短い言葉ではっきりと問いかけるようにすること
  • あいずちなどは少し大きな動作ですること
せり
せり

でも、本当はオンラインではなく実際の面接の方が好きです。

学生の頃、「患者さんが診察室に入る様子、出ていく様子もよく見ること」と教わりましたが、面接でも同じことが言えると思います。

入退室時の表情やしぐさ、立ち姿、歩き方、座る様子、面接中の体の動き(足を組んだり、指で机を触ったり)などを見ればいろいろなことに気がつきます。

人は、自分が思っている以上に口に出す言葉以外のところで雄弁なのです。

実際の面接ではその人の様子に合わせて質問内容を微調整するのですが、オンライン面接では顔、せいぜい上半身しか見えず情報量が少ないので、通り一遍の質問で終わりがちなことが残念です。

まとめ

長時間勤務者に対する面接指導と、ストレスチェック制度における面接指導オンラインで実施するための要件を解説しました。

オンライン面接をする医師の要件はいくつかありますが、法律上は医師であれば問題ありません(あくまで法律上はですが)。

一方で、必ずクリアしなくてはならない要件は以下の4点。

  • 使用する情報通信機器は、通達にあげられた要件3つを満たしている
  • 衛生委員会等の調査審議を経て、労働者に事前通知してある
  • プライバシーに配慮した面接環境を整備している
  • 緊急時の対応体制の整備ができている

大変そうですが、一度整備してしまえばあとはそれほど手間がかかるものではないので、長時間勤務者に対する面接指導やストレスチェック制度における面接指導が多い職場なら、導入を検討してもよいかもしれません。

せり
せり

最後までお読みいただきありがとうございました。

私自身はオンライン面接は好きではないのですが、これも時代の流れ。

これからますます増えていくことが考えられます。

制約がある中でもできるだけ実り多い面接ができるよう、精進していきたいと思います。

またお会いしましょう。