こんにちは!せりです。
前の記事では、産業医の仕事をしているとたびたび出会う「法令」について解説しました。
今回は、『法令はわかったけれど、よく見る「法令等」の「等」って何?』という疑問にお答えし、「等」のうちの「告示」と「公示」について詳しく解説します。
ぜひ最後までお読みください。
産業医のしごとをしていると遭遇する〈法令っぽい〉言葉 の例
前回の記事(「法令とは?法令がわかると産業医の業務は楽になる!」)では、産業医の仕事をしていてよく遭遇するこれらの〈法令っぽい〉言葉のうち、法令とは何かを解説しました。
法令には法的拘束力があることは前回記事でわかりました。
しかし、産業医の勉強をしていると「法令等」という言葉によく出会います。
…等って何ですか?
「法令等」 の 「等」 とは
「法令等」は、「法令(=法律、政令、省令)」と、それ以外の告示、公示、通達、ガイドラインを合わせていう言い方です。
法令ではないので、法的拘束力がないのか、と思われがちですがそうではありません。
この記事では、まず告示と公示についてみていきましょう。
告示・公示
告示・公示は公の機関が法令の中身をさらに詳しく具体的に決めて国民に知らせるもの。ベースに法律があるので、法的拘束力を持ちます。
告示と公示の区別については、わかりやすい解説を見つけましたので引用します。
では、それぞれ見ていきましょう。少しめんどくさいのですが、どうぞお付き合いください。
告示とは
例えば、「労働安全衛生規則第577条の2第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び厚生労働大臣が定める濃度の基準(厚生労働省告示第177号)」。
これは、厚生労働大臣が労働安全衛生規則(=省令、つまり法令)の中身について国民に知らせているものです。
タイトルからして長くてげっそりしますが、簡単に言えば、
”特定の物質を取り扱う屋内の作業場では労働者がばく露する濃度を基準以下にしないといけません” という労働安全衛生規則のきまりについて、その特定の物質の名前と濃度基準を示しているものです。
根拠法令をあたってみましょう。
労働安全衛生規則第577条の2第2項
事業者は、リスクアセスメント対象物のうち、一定程度のばく露に抑えることにより、労働者に健康障害を生ずるおそれがない物として厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う業務(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。)を行う屋内作業場においては、当該業務に従事する労働者がこれらの物にばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準以下としなければならない。
(強調筆者)
この「厚生労働大臣が定めるもの」や「厚生労働大臣が定める濃度の基準」が何かを国民に知らせるために出されるのが告示です。興味のある方は見てもらうとわかるのですが、とても具体的に細かく様々なことを定めています。
公示とは
例えば「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が構ずべき措置に関する指針」について。
これは労働安全衛生法第104条第3項(=法律、つまり法令)に基づいて厚生労働大臣が国民に知らせている公示です。該当箇所を見てみましょう。
労働安全衛生法第104条
3 厚生労働大臣は、前二項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
…法令ってこういう不親切なことするよね。ということで「前二項」もあげておきます(長いのでたたみます)。
労働安全衛生法第104条
事業者は、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置の実施に関し、労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
2 事業者は、労働者の心身の状態に関する情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。
ややこしい書き方をしていますが、何のことはありません。
労働安全衛生法に、”厚生労働大臣が労働者の健康情報の収集や保管、利用について厚生労働大臣が指針を出す”と書いてあるから出します、というだけのことです。
告示や公示の名称のつけ方にはきまりがある?
法律なら●●法、政令なら●●施行令や●●政令、省令なら●●規則とつくことが多いけれど、告示や公示の名称にはきまりがあるの?
安全衛生情報センター(中央労働災害防止協会)サイトの左にある「法令・通達」を見てみました。例外もありますが、だいたいは以下の通り。
告示:「○○ 第◇条(=法令)の規定に基づき厚生労働大臣が定める●●」
(●●の中には、技術要件、濃度基準などの用語が入ります)
公示:「○○ 第◇条(=法令※)の規定に基づく■■に関する指針に関する公示」または
「■■に関する指針」
先にあげた告示と公示をみて確認してみましょう。
告示 「労働安全衛生規則第577条の2第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び厚生労働大臣が定める濃度の基準」
公示 「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が構ずべき措置に関する指針」
特に告示は根拠法令をタイトルにしっかり明示してくれていることが多く、わかりやすいです。法令に基づく=法的拘束力がある ということなので、迷わなくてすみそうです。
一つ注意なのが、公示によく使われている「指針」という言葉です。
google翻訳をはじめ、「指針」を英訳すると「ガイドライン」と出てきますが、少なくとも厚生労働省が産業保健分野で出している「ガイドライン」は「公示」と同じものとは限らないようです。
これについては、次回の記事で詳しく解説しています。
告示や公示は法令等の「等」の部分だけれど、法的拘束力もあるし、しっかりチェックしないといけませんね。
まとめ
- 法令とは、法律と命令(政令・省令)のことでした。
- 法律をもとに、さらに細かいことを定めたものに告示・公示があります。
- 告示・公示は法律をベースにしているので法的拘束力をもちます
法令ではないからといって、告示や公示を見落とさないよう注意が必要ですね。
次回は「通達」と「ガイドライン」について解説します。
またお会いしましょう。