こんにちは!せりです。
これまで、産業医の仕事をしているとたびたび出会う「法令等」について解説してきました。
3回目のこの記事では「法令等」の「等」のうち「通達」と「ガイドライン」について解説します。
ぜひ最後までお読みください。
産業医の勉強をしているとよく遭遇する「法令等」という言葉について、3回にわたって解説してきました。
今回は「法令等」の「等」のうち、残りの「通達」「ガイドライン」について解説します。
この記事を読めば、もう「法令等」に出会っても怖くない!さっそく見ていきましょう。
通達
通達とは上級官庁が下級官庁や職員に対して示す行政内部の命令で、国民に向けているわけではありません。
じゃあ、通達は私たちには関係ない?
そんなことありません
通達の内容は法令の内容の解説や指示です。
通達を確認することは法令の正しい理解につながりますし、そもそも通達に基づいて行政指導が入るので、知らなかったではすまされません。
例えば、「医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する 考え方についての運用に当たっての留意事項について」という通達があります。これは、厚生労働省の労働基準局監督課長から都道府県労働局の労働基準部長宛てに出されたものです。
(文書名も肩書も長いですが、ここはそんなに問題ではないので気にしなくてOK)
国民にあてて出しているわけではありません。
しかし、病院に労基署のチェックが入ったときにはこの通達の内容に基づいてチェックされるわけです。宿直基準は労働基準法で定められているので、通達に書かれた内容に違反していれば労働基準法違反に問われるかも…ということです。
やっぱり見ておく必要がありそうですね。
そうなんですよ。
通達の文書名にはきまりがある?
法律なら○〇法、政令なら○〇施行令や○〇政令、省令なら○〇規則とつくことが多いけれど、通達の文書名にはきまりがあるの?
「〇〇について」という文書名にするみたい
安全衛生情報センター(中央労働災害防止協会)サイトの左にある「法令・通達」で調べた結果、例外なく「〇〇について」でした。
なんという緊張感のないタイトル…。通達がこんなに大事なものだと知らなければ、ついでのメモくらいに思ってスルーしそうです。危ないですね。
つぎはガイドラインについてです。
ガイドライン
前回の記事でも触れたように、ガイドラインを和訳すると指針。ですが、公示として示されている「●●指針」と、「ガイドライン」は必ずしも同じとは限りません。
むしろ、厚生労働省が産業保健に係る分野で出しているガイドラインは通達の形式であることが多いです。
通達として出されているガイドライン例
- 騒音障害防止のためのガイドライン
- 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン
- 事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン
- 高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン
- 職場における喫煙対策のためのガイドライン
指針として出されているガイドライン例
・労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)
《平成30年10月30日厚生労働省告示第375号》
通達のうち、他の通達とガイドラインとは何が違うのでしょうか。その説明にぴったりだと思ったのが「騒音障害防止のためのガイドラインの策定について」基発第546号 平成4年10月1日の前文です。
(注:令和5年4月20日 基発0420第2号によりこのガイドラインは改訂されています)
騒音障害の防止については、いまだ多くの騒音性難聴の発症を見ている状況にかんがみ、平成4年8月「騒音障害防止のためのガイドラインの策定について」基発第546号 平成4年10月1日 (令和5年4月20日 基発0420第2号により廃止)
24日に労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(平成4年労働省令第24号)を公布し、騒音障害防止対策の充実を図ることとしたところである。
今般、これら労働安全衛生規則に基づく措置を含め事業者が自主的に講ずることが望ましい騒音障害防止対策を体系化し、別添のとおり「騒音障害防止のためのガイドライン」を策定した。
ついては、関係事業場に対し、本ガイドラインの周知、徹底を図り、騒音障害防止対策の一層の推進に遺憾なきを期されたい。(以下略)
※強調 筆者
法令で定められている措置も、それ以外の自主的にやった方がよい措置も、全部まとめて体系化しましたよ、ということです。
産業保健に携わっていると口を酸っぱくして言われますよね。
法令さえ守っていればよいというものではない。
法令だけを守っていても、必ずしもはたらく人の安全と衛生を守れるとは限らないのです。
最近、化学物質の自主的な管理が言われるようになったのも、法令で規制されていない化学物質による健康被害が後を絶たないから。そもそも新規化学物質が年間1000件も届け出されている※状況では法令の規制が追い付かないのは当然です。
(※労働衛生のしおり 令和5年度 より)
同じことが、化学物質だけでなくすべての分野において言えるのでしょう。
まとめ
3回にわたって産業医の仕事をしていてよく遭遇する「法令等」について見てきました。
結局「法令」も「等」も全部見ていく必要はありそうですが、構造をわかったうえで確認していくと理解が早そうです。
1回目の記事で
よくわからないけれど、まあ国が言ってることだから、全部法律?
とにかく全部守ればいい?
時々変わるし、ややこしいし、めんどくさい~
と感じていたせり産業医も少し賢くなりました。
- 法令とは、法律と命令(政令・省令)のことでした。
- 法律は国会で制定されていて国民に義務や罰則を科すことができます。
- 法律はざっくりしていてそれだけでは運用できないので、政令と省令で細かいところを決め、それとセットになっています。
- 法律をもとに、さらに細かいことを定めたものに告示・公示があります。
- 通達は、国民にむけて発せられたものではないので、法的拘束力を持ちませんが、それをもとに行政指導が行われます。
- ガイドラインは、通達の形で出されることが多いですが、法令や法令以外の対策を体系的にまとめたものと考えてよさそうです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
またお会いしましょう。